【新刊案内】『数値シミュレーションで読み解く統計のしくみ 〜Rでためしてわかる心理統計』

書籍の紹介

2023年9月13日に、技術評論社より『数値シミュレーションで読み解く統計のしくみ 〜Rでためしてわかる心理統計』という書籍を上梓します。

 

gihyo.jp

 

本書は、確率分布や、確率分布が関係する様々な定理、帰無仮説検定や信頼区間、そしてサンプルサイズ設計(研究実施前に、取得すべきデータのサイズを見積もる研究実践)など様々な内容を、プログラミング言語Rを用いたシミュレーションにより理解することを目指した本です。

僕は3章(乱数生成シミュレーションの基礎)・4章(母数の推定のシミュレーション)の執筆を担当しました。

  • 「ベルヌーイ分布・二項分布・正規分布・多変量正規分布・χ2乗分布・t分布・F分布」といった確率分布同士がどのような関係にあるのか
  • 任意の確率分布に従う乱数を生成する方法
  • 母数(例:母平均)の推定に適した標本統計量(例:標本平均)はどのような性質を持つのか
  • 標本のデータが従う確率分布(母集団分布)と、標本統計量が従う確率分布(標本分布)の関係
  • 標本のサイズ(=サンプルサイズ)と標本分布の関係
  • 母平均や母相関係数の信頼区間

など、学部の統計学の講義で学習するような範疇をより深く理解し、母数に関する統計的推測は様々な仮定の上に立脚していることや、その仮定が満たされないことでどのようなバイアスが生じるかを、シミュレーションならではの方法で「実感」することを目指して執筆しました。

 

また、共著者が執筆した他の章も、かなり充実した内容になっています。

  • 2章:Rプログラミングの基礎
    • 単なるRの書き方だけでなく、オブジェクトの型や、より実行時間の短いコーディングなど、一段階深いところまで解説をしています。
  • 5章:帰無仮説検定の基礎
    • 帰無仮説検定において、各種の仮定が満たされないことにより、タイプⅠエラーがどのように変化するか
  • 6章:サンプルサイズ設計
    • この章が本当に目玉です。サンプルサイズ設計の重要性は理解していても、その実践方法はなかなか学習する機会がないものです。無料のソフトウェアで実践自体はできても、背後の理屈をしっかりと学ぶことが出来るのは、この本の特長だと思います。
  • 7章:回帰分析(階層線形モデルなども含む)を題材に、5~6章の内容をカバー
    • 回帰分析特有の、多重共線性などの問題も取り上げたシミュレーションを行っています。

 

後述するように、類書(執筆にあたり参考にさせていただきました)はいくつかありますが、R言語を用いて上記の内容を1冊でカバーした本は(現時点で)他にないと思います。

至らぬ点も多々あるかと思いますが、著者一同、自信をもっておすすめできる本です。

 

なお本書のサポートサイトがあり、こちらで正誤表や章末の演習問題の解答例を掲載していますので、併せてご覧ください。

ghmagazine.github.io

 

執筆の経緯

2022年5月(1年以上前...!)ごろにお声掛けいただいて、ジョインすることになりました。

僕がかつて、『改訂2版 Rユーザのための RStudio[実践]入門 〜tidyverseによるモダンな分析フローの世界』という書籍を技術評論社より上梓していたことから、当時の担当編集者の方にご相談して、本書もご担当いただくことになりました。

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この編集者の方が本当に信頼できる方で、ご担当いただけたことをとても幸運だったと思っています。『改訂2版 Rユーザのための RStudio[実践]入門 〜tidyverseによるモダンな分析フローの世界』のときもそうでしたが、かなり専門的な内容になるので、「よく分からないけど、著者がこう書いているんだから信じていいだろう」となってしまってもおかしくないところを、「この箇所、よく分からなかったので、もう少し説明を補ってもらえますか」とか、「この記述の意味は、これで合っていますか?」とか、「コードを実際に実行したんですが」とか、一行一行丁寧にチェックしていただきました。

 

この編集者の方から執筆当初に言われて感銘を受けた言葉があります。

この本1冊で完結する必要はない。読者に、自分の人生の中で、色々な書籍でポートフォリオを作ってほしい。その中で、「〇〇の書籍といえば本書」という位置づけになれれば理想

X(旧Twitter)上で出版社アカウントを見ていると、出版社の方々は、互いの会社の書籍の告知にも協力されているんですが、それもこういうモチベーションなのかな、と思いました。

僕はこの本1冊であれもこれも学べるようにと、初校ではかなり情報を詰め込んだ原稿を執筆してしまいました。しかしこの言葉を聞いて肩の力がいい意味で抜けてたように思います。本書内では多くの類書を引用していますので、ぜひそれらもご参照いただき、「ポートフォリオ」を作っていただければ嬉しいです。

 

執筆の苦労

多分3人の中で僕が一番、改稿回数が多かったと思います。それは何故かというと、「あれもこれも書きたがってしまう」から。

執筆中に多くの文献にあたって、色々な証明を試みましたが、「せっかくこれだけ苦労して証明したのだから、備忘録がてら、本書にも掲載したい」というエゴを出して、初校は数式だらけになってしまいました。

でもそれを見た共著者は、「これじゃ届かないよ」と一言。

他の2人を見ていて凄いなと常々思うのは、想定読者にあわせて、自在に解像度を変更できることでした。お2人とも統計学に通じているので、厳密な解説方法も御存じです。

でも、「厳密性を最重要視して書くと、本書の想定読者には恐らく届かない。だから、間違いにはならないギリギリのラインを見定めて、理解しやすい表現をする」ということを、共著者の2人は実践されていました。

 

僕は『ワールドトリガー』という漫画が大好きなんですが、米屋というキャラクターが、緑川という優秀だが経験の浅いキャラクターを指して「あいつは覚えたての動きを見せびらかしたいだけ。それでは勝てない」と評するシーンがあります。

ああ、自分は緑川と同じだな、とその時思ったのを覚えています。

 

僕の座右の銘は、「マイクや録音機器に向かってではない、人の心に向けて音楽をやるのだ」です。これは音楽プロデューサー梶浦由記さんの言葉。

書籍もきっとそうで、パソコンやキーボードに向かってではない、読者に向けて書くのだということを、これからも肝に銘じたいと思います。

 

参考図書

本書の執筆にあたり、多くの統計学の書籍を参考にさせていただきました。詳しくは本書をご参照いただければと思いますが、なかでも、特に参考にさせていただいた4冊を紹介します。

 

まずは『Pythonで学ぶあたらしい統計学の教科書』。僕はこの本が大好きで、かねてから「この本のR版が欲しい」と思っていました。本書を執筆するにあたり、昔から抱いていたその思いを実現するチャンスだ、ということがモチベーションになっていました。

www.shoeisha.co.jp

 

そして、『Rで学ぶ統計的データ解析』。僕はこの一連の「データサイエンス入門シリーズ」が大好きです。

この本の帯に「まずは手を動かそう、数理はそれからだ」というパンチラインが書かれています。

www.kspub.co.jp

 

最後に、『心理統計学の基礎 -- 統合的理解のために』およびその続編である『続・心理統計学の基礎 -- 統合的理解を広げ深める』の2冊。

大事なことはこの本に全て書いてあります。我々がこのたび上梓した書籍の役割は、これらの南風原本に至る足元を舗装することなのだということを、執筆中に認識しました。

 

www.yuhikaku.co.jp

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本書が、皆様のポートフォリオのなかで重要な一冊になれば嬉しいです。Enjoy!